認知症について

日本では、2012年に認知症の方が約462万人いると推計されており、2025年にはその数およそ700万人に達すると推計されており、これは高齢者の5人に1人が認知症を患っているということです。また、日本の人口構成は現在は高齢者率25%ですが、2050年には高齢者率40%に増加し、高齢者4割、労働人口5割、学童1割という生産年齢者が異常に少ない社会となることが予想されています。このような時代において、「認知症と共生する社会」、すなわち認知症の人と、そうでない人とが協力して、ともに尊厳ある生活を営むことができる社会が大変重要となってきます。久喜すずのき病院は認知症の方々がその人らしく地域で生活していけるように、患者様とそのご家族様を支援いたします。また、認知症を発症する前段階である軽度認知障害(MCI)の段階での早期発見、早期介入にも力を入れています。

認知症とは

認知症は、認知機能障害により判断力が低下して、日常生活全般に支障が出てくる疾患です。アルツハイマー型認知症は、認知症の原因疾患の6~7割を占める最も頻度の高い疾患です。発症、進行はゆっくりで、物忘れが最初にあらわれ、発症から死亡までの経過は平均で10年と言われます。次に多いのが脳梗塞や脳出血などの後に出てくる血管性認知症で、認知症の原因疾患の1~4割を占めます。障害された脳の部位によって症状が異なります。アルツハイマー病と血管性認知症の合併はよくみられます。そのほかに、レビー小体型認知症やパーキンソン病に伴う認知症があり、現実にはみえない物が見える幻視や手足の震えや小刻み歩行がみられます。また前頭側頭型認知症では、以前とは人格が変わってしまい、礼儀が守れず、感情が欠如し、無気力、我慢ができず過食となったり飲酒が増加したりなどの症状を呈します。65歳未満で発症する若年性認知症もあり、脳血管障害やアルツハイマー型認知症が原因となることが多いです。

  アルツハイマー型
認知症
血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症
表情、外観 愛想が良い、
検査に協力的
動作緩慢、麻痺がある パーキンソン様、
仮面様顔貌
表面的、無関心、
多幸感、不機嫌
態度 取り繕い 構音障害、感情失禁、
易怒的
小声 滞続言語、
落ち着きない動作、
無関心、立ち去り行動
発症経過 緩徐に発症して進行 階段状に進行 徐々に発症
注意の変動
徐々に発症
認知症の行動、
心理症状(BPSD)
物盗られ妄想 易怒性 幻視、
レム睡眠行動障害
反復動作、常同行動、徘徊

(野村明彦:精神医学的診察.認知症ハンドブック.医学書院、東京、P138 2014を参考に作成)

軽度認知障害(MCI)で早期発見し、早期対応することが重要

認知症を発症する以前の軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の段階で、日常生活に支障をきたすほどではないが、記憶などの能力が低下した状態をさします。MCIの方の約40%は、5年間で認知症へ発展すると言われており、MCIの段階での早期発見が重要となっています。この時期に適切に医療が介入することにより、認知症の進行を遅らせることができると期待されています。最近では、ウォーキングや水泳、体操、縄跳び、サイクリングなどの有酸素運動を1回に20~60分、頻度は週に3~5回行うことが認知症予防に効果的であるとわかってきました。また認知トレーニングなどの知的活動も認知症予防効果があると言われています。軽度認知障害(MCI)と診断されたら、すずのき病院デイケアで行っている運動や認知トレーニングのプログラムに参加してみると良いですね。それと同時に、生活習慣病のコントロールと規則正しい生活を心がけましょう。

アルツハイマー病の発症に関係する因子
リスク因子 防御因子
糖尿病 高い教育歴
高血圧 刺激的な仕事
高脂血症 趣味
肥満 脳トレーニング
うつ病 社会的交流
不活発 散歩などの有酸素運動
喫煙 指先の運動
高ホモシステイン血症 昼寝
  地中海食などの食事スタイル
  緑黄色野菜
  カロリー制限
  ポリフェノール
  不飽和胸肪酸(ω6、ω3)

認知症の症状

認知症の症状は、記憶障害や見当識障害、理解力の低下などの中核症状と認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptom of Dementia)に分けられます。

<認知症の中核症状>

  • ①物忘れ(記憶障害)
  • 昔から知っている人の名前が出てこない
  • 同じものを何個も買ってくる
  • 冷蔵庫の整理ができず、腐っているものも捨てない
  • 約束を忘れる
  • なくしものが多く、いつも何かを探している
  • 何度も予約の確認をする
  • 数分前、数時間前の出来事を忘れる
  • ➁時間・場所がわからない(見当識障害)
  • 日付や曜日がわからない
  • どこにいるのかわからなくなる
  • 慣れた道で迷う
  • 出来事の前後関係がわからなくなる
  • ③理解力・判断力が低下する
  • 運転などのミスが多くなる
  • 手続きや貯金の出し入れができなくなる
  • テレビ番組の内容が理解できなくなる
  • ④仕事や家事、身の回りのことができなくなる
  • リモコンの使い方がわからない
  • 仕事や家事の段取りが悪くなる
  • 火の消し忘れがある
  • 服装が季節に合ってない(夏なのにコートを着る)
  • 洗面や入浴の仕方がわからなくなる
  • 失禁が増える

<認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptom of Dementia>

  • 誰もいないのに、誰かがいると言う(幻視)
  • 自分の物を誰かに盗られたという(物盗られ妄想)
  • 怒りっぽい、暴言や暴力がある
  • 不安感が強く、一人でいられない
  • 憂鬱でふさぎこみ、食欲がない

<軽度認知障害(MCI)の症状>

  • 物忘れが多いという本人の自覚がある
  • 以前と比べたら、物忘れなどの認知機能の低下を認める
  • 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない

認知症の症状を認めたら、地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなどに相談しましょう。

認知症の治療

認知症には治療可能な疾患と根本的な治療が確立されていない疾患とがあります。治療可能な認知症の代表は、正常圧水頭症、慢性硬膜下血種、ビタミンB1欠乏症、その他内科疾患に伴うせん妄、薬剤によるせん妄などがあります。認知症疾患医療センターの専門医はこれらの鑑別を行い、適切に治療します。
一方、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの認知症は、現段階では根本的な治療が困難です。これらの認知症では、できるだけ症状を軽くして、進行の速度を遅らせることが現在の治療目標となります。治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。また、2021年6月8日には、米国食品医薬品局(FDA)がADUHELMTM(一般目アデュカヌマブ)について、脳内のアミロイドβプラークを減少させることにより、アルツハイマー病の病理に作用する初めての治療薬であるとして迅速承認しました。日本での承認はまだされておらず、今後の検証試験による臨床的有用性の確認が重要となってきます。

アルツハイマー型認知症の中核症状への治療薬は、下記があります。
・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
脳内のアセチルコリン濃度をあげるお薬です。
ドネペジル:1日1回服用で軽症、中等症、重症の患者様に適応があります。
ガランタミン:1日2回服用で、軽症と中等症に適応があります。脳血管障害を合併したアルツハイマー型認知症への有効性が示唆されています。
リバスチグミン:添付剤で、内服ができない患者様にも有効です。
・NMDA受容体拮抗薬
NMDA受容体に作用して、細胞内への過剰なカルシウム流入を防止し、シナプス間での情報伝達を改善させるお薬です。
メマンチン:中等症と重症に適応があります。

また、レビー小体型認知症では、ドネペジルのみ保険適応が認められています。これらの薬剤は認知症の進行を完全に抑えるものではなく、あくまでも進行を遅らせる作用です。血管性認知症の治療薬は今のところありませんが、脳血管障害の再発予防のために生活習慣病のコントロールが大切となります。

認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療

認知症患者様の60~90%に、少なくとも1つのBPSD症状があらわれます。
BPSDに対する治療としては、非薬物的介入がまず優先されます。認知症患者様の抱える不安や喪失感を理解し、適切なリハビリテーションや環境調整など、多職種で協力するケアが行われます。それでもBPSDのコントロールが難しかった場合には、抗精神病薬や抗うつ薬などを使用することがあります。これらの薬剤を使用する際には、転倒や骨折、誤嚥のリスクなどを患者様とご家族様に説明し、専門家の指導下で少量使用します。

重度認知症患者デイケア

新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討会報告(厚生労働省2011年)では、認知機能の改善が示され、増悪による入院は少なく、デイケアには十分な治療効果があったと報告されています。在宅生活や施設での療養生活の継続のために、精神科医師、看護師、作業療法士などの多職種チームがプログラムを運用しています。認知症患者様の居場所となるような安心できる場所を提供し、健康維持のための運動プログラムや認知トレーニングなども行っております。詳細は当院の重度認知症デイケアの項目をご参照ください。