うつ病
日本人男性の約4%、日本人女性の約7%が一生涯のうちにうつ病になると言われており、誰もがなりうる身近な病気です。うつ病は女性に多く、若年者で多い傾向があります。また、うつ病は自殺の主要な原因でもあると言われていますが、その受診率は低く、適切な治療を受けていない人がたくさんいると考えられています。うつ病は様々なストレスから、脳がうまく働かなくなっている状態です。うつ病かな、と思ったら早めに専門医療機関に相談し、適切な治療と十分な休養をとるようにしましょう。
うつ病の原因
うつ病発症の原因は現段階ではよくわかっていませんが、様々なストレスの後に発症することがあります。例えば、病気や怪我、親しい人の死別、コロナ禍における失職や家族に会えないストレスなどの悲しい出来事だけでなく、引っ越しや昇進、結婚など頑張った出来事の後に荷下ろしうつ病を引き起こすこともあります。
うつ病になりやすい人
うつ病になりやすい性格には、「メランコリー親和型」が知られています。メランコリー親和型の人は、秩序やルールに忠実であり、非常に献身的であり、頼まれると嫌と言えない、真面目、仕事熱心である、責任感が強いなどの特徴があります。社会的な評価は高いですが、何か問題が起こると、「全ては自分の責任だ」と自分自身を追い込んでしまう傾向があります。また、近年「新型うつ病」とか「非定型うつ病」とも言われる新しいタイプのうつ病が増えていると言われており、夕方から夜にかけて、抑うつ発作が現われ、楽しいことがあると元気になる気分反応性がみられます。過食、過眠が多く、「上司や同僚のせいだ」と他責的になる傾向があります。主に20~30代の若者に多く、非定型うつ病の病前性格は「ディスチミア親和型」と呼ばれ、漠然とした万能感、回避傾向、社会的役割を離れた自分自身への愛着、ルールに対して「ストレス」であると感じる、元々仕事熱心でない、上下関係の社会への嫌悪感など、メランコリー親和型とは異なった特徴が認められます。
うつ病の症状
心の症状
- ほとんど1日中、ほとんど毎日気分が落ち込んでいる
- 今まで楽しめていた趣味が楽しめない
- 不安感や焦りがある
- 意欲がない、億劫である
- 自分は価値がない人間だ、自分のせいでこんなことになったという気持ちがある
- 集中力がなく、物事を決められない
- 死についての反復思考
身体の症状
- 睡眠障害
- 食欲低下、体重減少
- 不眠、過眠
- 疲労感、倦怠感
- 性欲がない
- 動悸、息苦しさ、口が乾く
- 便秘や下痢
- 頭痛や肩こり
<家族が気付く変化>
- 暗い表情で、活気がない
- 頭痛や肩こりなど体調不良の訴えが多くなる
- 仕事や家事の能率が低下し、ミスが増える
- 周囲との交流を避けるようになった
- 遅刻、早退、欠席が増加する
- 以前好きだった趣味やスポーツができない
- 日曜日も外出せずに、横になって過ごしている
- 飲酒量が増える
<職場の人が気付く変化>
- 活気がなく、口数が少なくなる
- 冗談を言ったり笑ったりしなくなる
- 会議などで発言しなくなる
- 休暇や欠勤が目立つ
- 昼食をあまり食べなくなる
- 集中力がなく、よくミスをするようになった
- 話をしても、内容が理解できない
- よくため息をつく
- 気弱なことを言う
- 仕事に自信を失い自己卑下する
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うつ病の治療
うつ病治療の三大柱は、休養、薬物療法、精神療法です。
休養
心身の十分な休養がとれるよう環境を整えましょう。職場や学校から離れて自宅療養をします。また、入院という保護的な環境下でゆっくりと心を癒すのも一つの選択肢です。うつ病を早期発見し、早期治療を行うことで、自殺や重症化、慢性化を防ぐことができます。
薬物療法
薬で治療することに抵抗のある患者様もいらっしゃいますが、うつ病は脳の神経伝達物質のバランスの異常を認めますので、糖尿病や高血圧などの病気と同じように適切な薬物療法を行う必要があります。脳の神経伝達物質を補う薬は、抗うつ薬と呼ばれ、下記の種類があります。抗うつ薬には速効性がなく、飲み始めてから2週間程度経過してから効果が現れますので、服薬を継続しましょう。
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
脳内で神経伝達物質であるセロトニンの働きを強めます。
・SNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
脳内で神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの働きを強めます。
・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
SSRIやSNRIとは異なる作用でセロトニンとノルアドレナリンの放出を促進させる比較的新しい抗うつ薬です。
・三環系・四環系抗うつ薬
古くからうつ病の治療に使用されてきた抗うつ薬です。抗コリン作用による便秘や口渇などの副作用がありますが、重症例には使用することもあります。
また、薬物療法の効果を待てない緊急時、例えば自殺の危険性が切迫している場合、食事がとれない場合、精神病症状がある場合、緊張病症状がある場合、薬物治療抵抗性の場合には修正型電気痙攣療法(mECT)が適応になります。
精神療法
うつ病の認知行動療法では、気分を悪化させるような考え方や行動を変える練習をして、うつ病を改善させていきます。まずは自分の考え方の癖をチェックして理解することで、自分を落ち込ませる考えが出てきた時に、自己対処しやすくなったり、予防しやすくなったりします。考え方を柔軟にしたり、行動を変えることで気分を改善させる練習を臨床心理士と共に行います。
・復職支援プログラム(リワークデイケア)
うつ病などのメンタルヘルス不調により休職されている方を対象として、職場復帰へ向けたプログラムを実施します。
①心身、健康の回復(ヨガ、ウォーキング、アロマ)
②ストレス対処法の向上(認知行動療法、グループワーク)
③仕事に必要な能力の回復(個人作業、個別課題)
このようなプログラムを組み合わせて、徐々に復職するための心と身体の準備を整えていきます。