クロザピン

クロザピン(クロザリル)とは

十分な薬物治療によっても精神症状が改善しない統合失調症の患者様(反応性不良)、また副作用のために十分な薬物治療を行うことができない統合失調症の患者様(耐用性不良)を、まとめて「治療抵抗性統合失調症」と呼びます。クロザピン(クロザリル)は、この治療抵抗性統合失調症に対して、有効性の確立されている唯一の治療薬です。 クロザリルは多くの国で使われており、日本には2009年に導入され、2020年4月までにのべ1万人以上の方に用いられています。クロザリルはその治療効果も高い一方で、副作用も認められるため、日本ではクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)という制度の下で、決められたプロトコールに沿って処方されています。また、クロザリルを処方できる医療機関と医師がCPMSにより規定されています。

クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)とは

CPMSはクロザリルを製造しているノバルティスファーマ株式会社内に設置される「クロザリル患者モニタリングサービスセンター」により運営されています。クロザリルを服用している患者様は全てCPMSに登録されます。定期的に行われる採血などの検査結果については、インターネットを介して、直接CPMSセンターに送信され、そのセキュリティーは十分考慮して行われます。

クロザリルによる治療を行える医療機関

クロザリルによる治療を行う医療機関は登録が必要であり、当院はCPMS登録医療機関に認定されています。

クロザリルを処方できる医師

クロザリルは、この薬の講習を受講、履修して、クロザリルの情報や緊急時の対処を含めて十分な知識を習得し、審査を通過した登録医師(CPMS登録医)だけが処方できます。当院には、CPMS登録医が5名在籍しています。

統合失調症の方で、クロザリルの投与が検討されるのはどんな患者さんですか?

  • 陽性症状(幻覚、妄想、興奮など)が改善しない場合
  • 陰性症状(無気力、無関心など)が改善しない場合
  • その他、統合失調症による症状・行動(多量に水を飲んだり、自分を傷つけたり、暴力を振るうなど)が問題となっている場合
  • 錐体外路症状(手足のこわばり、ふるえ、じっと座っていられないなど)のため、精神症状の改善に必要な量の薬が服用できない場合
  • 再発・再入院が繰り返される場合
  • これまでの薬による治療の継続が難しい場合

クロザリルの効果を具体的に教えてください。

  • クロザリルは、衝動性、敵意、猜疑心が強い患者様に対して、改善効果が高いと言われています。敵意、猜疑心、非協調性などの症状が改善することにより、対人交流が広がり、社会参加が増えていきます。
  • 統合失調症患者様の20~40%が自殺を試み、10%程度が自殺で死亡すると言われていますが、クロザリルは自殺予防効果が高いと言われています。
  • Meltzerらの研究によると、クロザリル治療導入の前後1年で、入院回数が46回から8回と82.6%も減少したという報告があります。(Meltzer,H.Y.,Burnett,S.,Bastani,B.et al:Effects of six months of clozapine treatment on the quality of life of chronic schizophrenic patients.Hosp.Commyunity Psychiatry,41:892-897,1990)
  • 統合失調症の患者様では、多飲症、すなわち体重が著明に増加するほどの飲水行動により日常生活に支障が出ている状態を呈することが少なくありません。クロザリルは、物質依存に対する優れた作用があり、水への渇望をより強力に抑えることで多飲症を改善させる可能性が考えられます。
  • 認知機能障害や陰性症状(無気力、無関心など)を認める統合失調症患者様でも、クロザリルを投与することで、言語学習機能、言葉の流暢性などを改善する作用があることがわかっています。

クロザリルの副作用とその対策について教えてください。

    クロザリルの副作用には下記のものがあります。

    • 白血球減少症・好中球減少症・無顆粒球症
      クロザリルは白血球のうち、体内に入った細菌を殺す重要な働きをする好中球を著しく減らすことがあります。白血球全体の数が減ることを「白血球減少症」、好中球の数が著しく減ることを「好中球減少症」と言い、顆粒球がほとんどなくなった状態のことを無顆粒球症と言います。
      無顆粒球症では、細菌の感染から身を守ることができないため、軽い感染症にかかったときでも重症になる可能性があるため、適切に対処する必要があります。
      無顆粒球症の頻度は、クロザリルの市販後調査で、1860人中の21人(1.1%)でした。この方たちは、適切な対処により全ての方が無顆粒球症から回復しています。

無顆粒球症の対処とは…

    この無顆粒球症を早期に発見して対処するために、日本ではクロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)という制度が導入されています。クロザリルの投与前、投与中に定期的な採血を行っており、白血球数や好中球数を測定し、その値をCPMSに報告することが義務づけられており、血液検査が行われていないと処方ができない仕組みになっています。
    クロザリル投与開始後の早い時期に、無顆粒球症が起きやすいことがわかっています。このため、クロザリルは入院をして投与を開始し、クロザリル開始後26週までは毎週の採血による血球の確認が義務付けられています。このような定期採血で、白血球数3000/mm3、または好中球数1500/mm3よりも少なくなった時には、すぐにクロザリルの使用を中止することになっています。そしてその後に適切な治療をすることで、ほとんどの場合は無顆粒球症から回復します。

    • 高血糖
      クロザリルの服用中に、新たに糖尿病になったり、元々ある糖尿病を悪化させたりする可能性が他の薬に比べて高いと言われています。しかし、クロザリルは治療抵抗性統合失調症治療薬であることから、医師の判断で服薬が可能な場合があります。
      高血糖の頻度は、クロザリルの市販後調査で、1860人中の242人(13.0%)でした。

糖尿病の対処とは・・・

    糖尿病の発症や、元々ある糖尿病の悪化を防ぐため、糖尿病あるいは糖尿病と診断されたことのある方は、治療上やむを得ないと判断される場合を除き服薬できないことになっています。クロザリルの服薬中は、血糖値の異常を早期に発見するため、血液検査を定期的に行います。担当医師は、糖尿病治療に関する十分な知識と経験を有する医師と連携して適切な対処を行います。

    • 心臓への副作用
      クロザリルは心筋炎、心筋症、心膜炎、心のう液貯留などの副作用を起こすことがあります。心筋炎はクロザリル投与開始後数週間後までに出現することが多いので、必ず入院して慎重に経過を見ることが必要です。
      心臓の副作用を防ぐため、心臓に異常のある方は、クロザリルの服用を控えたほうが良い場合がありますので、担当医師に相談してください。
    • てんかん発作
      クロザリルにより、てんかん発作が起こりやすくなる可能性があります。これまでにてんかん発作と診断されている方は、クロザリルの服用を控えたほうが良い場合がありますので、担当医師に相談してください。必要に応じて脳波検査を行います。
    • そのほかの副作用
      これまでに述べた副作用以外に、下記のものがあります。
      ・よだれが多く出る
      ・便秘
      ・発熱
      ・体重増加
      ・腸閉塞、麻痺性イレウス
      ・起立性低血圧、失神、循環虚脱頻度は高くない副作用・悪性症候群
      ・肺塞栓症、深部静脈血栓症
      ・劇症肝炎、肝炎、胆汁うっ滞性黄疸
      ・胸膜炎