学習療法の効果

今回、高齢者デイケアで実施している学習療法についてクローズアップしてみました。
当デイケアでは、音読と計算を中心とする教材を用いた学習を行っています。学習者の認知機能やコミュニケーション機能、身辺自立機能など前頭前野機能の維持・改善を図る目的があります。
実施期間:平成18年6月3日から1ヶ月間
対象者:K様(アルコール依存・コルサコフ症候群)、H様(老年期痴呆)、O様(アルツハイマー型痴呆)
実施頻度:週2から3回の30分間
効果測定:長谷川式、記述式記録
K様の変化
開始前:HDS-R 15点(数字の逆唱0点、言語の流暢性2点)
常に傾眠状態で、フロア内でのスタッフとのコミュニケーションとりづらく、また発語機会も少ない。
1ヵ月後:HDS-R 17点(数字の逆唱2点、言語の流暢性5点)
傾眠状態はほとんど変わらないが、学習療法を通してのコミュニケーションの機会が増えた。スタッフ等から誉められる経験も増えた。
H様の変化
開始前:HDS-R 11点(日時と場所の見当識1点、物品記銘2点、言語の流暢性1点)
デイケアに対するモチベーションが低く、欠席することがしばしば見受けられた。他者とのコミュニケーションでは、やや一方的で同じことを繰り返す傾向にある。
1ヵ月後:HDS-R 18点(日時と場所の見当識3点、物品記銘4点、言語の流暢性3点)
テストでは、問題掲示してから回答するまでの時間が短縮された。デイケアに休みなく参加し、学習療法に対する意欲が高く、他活動に対しても前向きになる。他者とのコミュニケーションでは、会話の幅が広がる。
O様の変化
開始前:HDS-R 15点(言語の流暢性0点)
意欲的に様々な活動に参加し、コミュニケーションも良好である。
1ヵ月後:HDS-R 18点(言語の流暢性5点)
前回の学習療法で実施したこと自体は忘れているが、学習療法後は、毎回満足した表情である。
まとめ
1ヶ月という短い期間であったにもかかわらず、対象者全員にHDS-Rの向上が見られた。特に言語の流暢性は共通して上昇しており、音読書字を行ったことで、言語的な認知の改善が見られたと考えられる。
また、マン・ツー・マンでの学習療法を通して、誉められる体験により自己について肯定的な感情を得られたようである。さらに、過去のエピソードを語ることで、回想療法的な効果もあり、結果、他者とのコミュニケーションの幅が広がってきたものと思われる。
学習療法は、1対1で行われるため、「自分だけの特別な時間」という認識をすることで自己開示がしやすく、集団の中では得られづらい満足感を体験できたと見られる。
結果として、学習療法はデイケアに対するモチベーションの向上と、コミュニケーション能力を中心とする認知機能の改善につながったのてせはないだろうか。
実地担当:作業療法士 滝・青木・近藤